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File⑨

・「ピアノを弾く孫を見ながら不思議に思う。楽譜も見ないで全ての音律を間違いなく奏でて

  いる道徳と秩序の問題である。」

 

・「つながらなくてもいいじゃないかと人は言う。連帯感がない。すべての事象や物語、広く

  いえば人生は常につながっていなくては、単に記憶の点在でしかない。」

 

・「雨が降って来た。傘がないと濡れてしまう。風邪をひきたくなきゃささないと大変だ。人

  は本当に大変というこうとを知っている。生まれてから何度も経験してるから。」

 

・「エレベーターに閉じ込められた。恐くてしょうがない。震える私にとって庫内のインター

  ホンが点滅している。恐けりゃ早く受話器をとればいいのに。」

 

・「壊れかけた人形を抱きしめて、大事そうにほほずりをしている少女がいる。どうでもいい

  ことかもしれないけれど、虚構の中でしか生きられない、生物が現実に帰って来たかのよ

  うな錯覚さえおぼえる。」

 

・「喉が痛い。風邪でもひいてしまったのか、熱はないのにやたら筋肉痛もある。病気って嫌

  です。すべてを不快にしてしまう。おもしろくない道化師のように。」

 

・「肩こりがひどい。悪魔が降臨して来た。」

 

・「ゴルフ場はいい。青く拡がるグリーンの向こうにピンが立っている。ピンをねらってス

  ウィングしたけれどボールは林の中へ…自分の意志で嫌がってるように。」

 

・「路上で議員らしき男が叫んでる。何のために何を言いたいのかわからない。静寂した交差

  点、だれも振り向きもしない。一人で優越感に浸っているのに。」

 

・「自虐的な人間はいつも悲観的である。どうしてそんなに悲しい顔をするのに。自分をいじ

  めたいという気持ちはわかるような気もするけど、実に淋しいものだ。」

 

・「バラ色の夢。あぁ、なんてロマンチックでドラマチックなんだ。」

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